切なかった時間

まあ、フルーツパフェというものに憧れときめいていた、まだクリームソーダしか知らない小学校3年生ぐらいの女の子がいたと思いねえ。 

父親に何度も何度もせがみ続け、ある日とうとう念願が叶うことになり、二人で喫茶店に入ったのでした。父親の、「フルーツパフェ二つ」という注文に少々戸惑いつつも(自分だけだと思っていた)気を取り直し、うきうきわくわく嬉し恥ずかしく待つこと………いささか長し。 
次々と料理のお皿やコーヒーカップの届くテーブルに囲まれて、ウェイトレスさんからは、チラとも気付いてもらえずに。わくわくニコニコだった気分は徐々に冷え冷えと固まってしてしまい、口数は減り、何ともかんとも居たたまれない雰囲気が二人を覆い、幼い心には不安が渦を巻き…。まるで父親と二人っきり、世間から見放されてしまったかのような、あの心許なさと言ったら。 
結局しびれを切らした父親が、店員に声をかけたのでしたが(自分のオーダーが恥ずかしくてグズグズしていたに違いない、と今なら思う)。

あの、やっとフルーツパフェを目の前にしたときの、情けないような、思いっきり脱力してしまいたいような、やり場のない気持ち。もっと嬉しいはずだった生クリームの甘ささえ、もの哀しく味わい深かったのでありました。 
二人でじっとフルーツパフェを待ち続けていた、あの時間の切なさは忘れがたいです。 
そして、二人黙として向かい合い、フルーツパフェを食べていた姿の、そこはかとない滑稽さも。
当時まだ、「切ない」とか「居たたまれない」とか、そんな言葉もその意味も知らなかった私が、少しずつそうして、そういった気持ちの存在に気が付いていったんだろうな〜。……愛しいかな。